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ラビリンス [創作]

暗い部屋で一人、横たわっていた。

真夜中なのに、チャイムが鳴り、外から話し声が聞こえる。
「もう帰ってるはず」・・・誰が?

異常を感じたので、電気のスイッチに手を伸ばしたけれど、
何度押しても、灯りはつかない。

体が浮かび上がった。
怖かった。

けれど、観念して、「浮くなら浮かべ」と思ったら
もう浮いてなかった。

ドアが開いている。
外を見ると、お店があった。
部屋の外は家の中のはずなのに。
どうなっているんだろう。
何かがヘンだけれど、探検してみよう。

ボクシングの練習をしている人がいた。
殴られそうになった。

女の人がお店で何か売っているけれど、
それが何かわからない。

歩けば歩くほど、ラビリンス。
以前にもこんなことがあったようなデジャブ感。

きっとどこにも辿り着けないかも。

ぐるぐる歩き回って、
私の部屋があったはずの場所を覗くと
そこにはもう部屋はなく
見知らぬ廃屋になっていた。
自分の部屋もなく、帰る場所もなくなってしまった。

ここは二階だったはずだけれど
更に上に続く階段がある。
昇ってみようか。
どうせ、どこに行くでもないのだから。

さっきまで平気だったのに、
足が萎えて、うまく昇れないよ。
転びそうになりながら、もたもたと一段ずつ。。。

進まない、全然前に進まない。

心も体も辛くなったから
踊り場でデタラメを歌ってみた。

♪ あなたが大好き、誰よりも。
ただそれだけ ♪

それが呪文だったかのように
私の体は元いた部屋のベッドに戻っていた。

涙が溢れて止まらない。

今、スイッチを押したら、灯りがともった。



今日は、かつて好きだった人の誕生日だったはず。
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相方2 [創作]

暑い!
兄妹喧嘩も熱い!

「●●(兄の名前)なんて、顔、アンパンマンのくせに!」

罵詈雑言?ですか?アンパンマンに失礼じゃないですか?

兄の顔がアンパンマンに見えてきました。。。これからは私も彼をアンパンマンと呼ばせてもらいます♪


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前回の話



久々にコースケと会うことになった。
お互いに忙しくなり、なかなか会う機会がなかったが、俺から連絡をとり、コースケが最近オープンさせた店で会うことになった。
もう、夜の1時をまわっているが、特別に店を開けておくとのことだった。


お好み焼き屋というよりは、ダイニングバーのような小洒落た店のドアを開けると、「いらっしゃいませ」と出迎えたのはオーナー自身だった。服装は一般従業員のユニフォーム姿だったが。
従業員はもう帰したあとだった。

「遅い時間に悪いな」

「俺もこんな時間しか約束でけへんからな。お互い様や」

コースケはちっとも変ってない。鉄板を温めながら、まずビールか?と聞いた。

「そやな、豚玉とな」

「生ひとつ、豚玉ひとつ入ります」
誰もいない厨房に向かって叫ぶ。

コースケがお好み焼きを焼いてくれている間に、俺は生のジョッキを2杯あけた。
ビールの勢いで聞いてみる。何気ないふりを装いつつ。

「ションコから聞いてんけど、お前ら結婚すんの?」

「あいつ、もう言うたんか?どんな風に言うてたん?」

「何かの賞をもろたら漫才やめて結婚してカリスマ主婦かなんかになる言うてたで」

「そうかあ。
お前、俺ら幼馴染やったん知ってる?」

「小学校から一緒やったんは知ってるで」

「ガキの頃から結婚しよ言うたり、大喧嘩して大嫌い言うたりしながらずっとおってん。もちろん大人になってからはそんなことはないけどな」

「そやけど、最近ちゃんとプロポーズしてんやろ?」

「プロポーズなんかなぁ。俺からか?
賞もろたら、もう未練ないやろぐらいは言うたかもしれへんけど。
そのとき、あいつ、やめたら結婚せなカッコつけへんみたいなこと言うたから、そやなぁぐらいは言うたかも」

「そやなぁがよっぽどうれしかったんやなぁ。
コースケ、ごめんな」

「何がや」

「俺がションコと漫才組んで寂しい思いさせてたんやろ」

「そんなことない。そんなことないで。
けど、悔しかったわ。俺がべんたろーと組みたかったんや。お前は最初から光ってたからな。何でションコなんかと組むんや思うて学校恨んだわ。
高校のときにな、ションコにお笑いしよ言われたとき、しばらくやってみて、ダメやっても最終的には俺の家の仕事したらええし、その時はションコも一緒に店したらええわ思うてた。昔から家族のことも全部知ってるやろ。お笑いで食べて行かれへんかっても、ええ思い出二人で作れたらそれでええと思うてた、お前と会うまではな。
でも、養成所でお前の姿見て、こいつは絶対モノになりよるでと思うた。一緒にやってみたい思うた。
でもな、学校も見てたんや。みんな必死になって、ネタ考えたり、アピールする方法見つけよう思うてるのに、俺は腰掛け的に見えたんやろ。ションコもずっと必死やったからな。ションコがお前と組む言うたとき、ションコに嫉妬したんや。
見返したろ思うて、一人で頑張ってみたけど、無理やったな。
お前な、ずっとションコと一緒ではダメやで。もっと上に行けるわ。ある程度、顔売ったら一人でやっていった方がええ。
でも、ションコも今のままやったら、踏ん切りつけへんやんか。お前とは格が違ういうことに気ぃつかさなあかんねん。自分のおかげで売れ始めてるみたいな勘違いしてるところあるわ」



そんなこと言われても。
俺はコースケの予想もしない話の展開に口をはさむこともできず、もくもくと豚玉を食べた。

「そういうことで、もうしばらくションコを頼むわ」

「ションコはええ女やで。大事にしたれ」

「そやろ、ほんまにな。小さい頃からほっとかれへん奴やねん。かわいいやろ。
お前、手ぇ出すなよ。お前はもっとランク高いの狙え。成功してからやったら何ぼでもチャンスがあるからな。
俺はションコしかおらへんもんなぁ。ションコ、ほんまにかわいいなぁ」

「もうええわ」

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「ええ話やろ?」


「誰がべんたろーやね。俺はけんたろーじゃ。いつから俺ら漫才師やねん」

「まぁ、ええやん。コースケどう?」

「俺らつき合ってないし。幼馴染も違うし。ションコとかべんたろーとかいったい何やねん。お前シホコやん。何、三角関係の中心になってんねん」

「今も三角関係みたいなもんやん」

「違うから。三角も四角も何の関係もないから。
コースケ、オーナーやったらバイト料あげてえな」

「オーナーちゃう。つーか、あほなことしてんと、はよ帰ってレポート書かなあかん。明日、提出期限やん。
ほな、さいなら」

「おいおい、ションコと二人きりにすんなや」

THE END
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相方 [創作]

スポットライトの中で輝く笑顔!



大きな拍手が、ステージそでに戻る二人を包んだ。


そして、ステージ上と裏の落差と言ったら・・・






「べんたろー、話あんねんけど」

「何や?はよ、言うてみ」

「ここでは言われへんわ。秘密の話や。控え室行こ」

俺とションコは控え室に移動した。





「どうしてん。あらたまって」

「べんたろーだけに先言うとくわ。迷惑かけるかもしれへんからな」

「だから、何やんねん」

「びっくりしたらあかんで」

「はよ、言えや」

「ほんまにびっくりしたらあかんで。。。
。。。実は結婚すんねん」

俺は動揺を抑えて言った。

「どこにカメラあるん?ドッキリなんやろ」

「何言うてんの。ドッキリ依頼くるほど売れてへんわ。。。ほんまやで」

「嘘や」

「ほんまやから」

「仕事やっともらえるようになってきてんねんで。これからどうすんねん、と冷静に聞いてみたりするわ」

「もちろん、漫才はやめるで。」

「突然、何言うてんねん。相手、誰や?」

「コースケや」

「何やて?いつの間につきおうとってん」

「あんたと組む前からや」

もともとコースケとションコは組んで漫才をしていたが、お笑い芸人養成所で俺とションコが組まされてからは、コースケはピンでやっていた。その後、コースケはお笑いをやめて、家業を継ぎ事業拡大に成功、今ではお好み焼きチェーン店のオーナーだ。

「売れてへんときは、コースケとこでバイトしててん」

「それは知ってる」

「でも、この頃会われへんようになってきたやろ。寂しいから漫才もうやめてって言われてんねん」

「結婚して一緒に住むようになったら、毎日会えるやんけ。漫才やめんでもええんちゃうか」

「漫才でもべんたろーに私のこととられたやろ。私生活でもとられるんちゃうか思うてやきもち焼いてるんちゃうか。かわいいやろ~♪★」

「何、のろけてんねん。そんなこと言うてる場合ちゃうやろ。引退するいうことか」

「引退はせえへんで。もうちょっと顔売れるようになったら漫才はやめてお互いに独立してやってこいうことや。今のままでやめてもまだまだ中途半端やからな。だから何か賞もらえるまで頑張って、それから解散記者会見するねん。それからな、普通の女の子に戻って、結婚して、カリスマ主婦になって本出したり、雑誌のインタビュー受けたりするねんで」

「あのなあ、夢みたいなこと言うてるけど、賞とか簡単にもらえるもんちゃうで。もらわれへんかったら、どうするんや?」

「そりゃ、もらえるまで続けるしかしゃあないな」

「コースケがそう言うてるんか?」

「うん♪ 賞もろたら、褒美に結婚したるって」

「コースケ、全然寂しがってへんやんけ」

「私のことべんたろーに漫才でとられたのが相当悔しかったみたいやけど、賞もろたら諦めもつくんちゃう」

「そうか、ほんなら賞貰うまで頑張ろかあ」

「コースケ、ほんまにかわいいなあ♪★」

「もうええわ」(笑)




俺はションコへの気持ちに気づいてしまった。


(続くかも)
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ママの恋人 1 [創作]

「俺の娘ちゃうやろうなぁ?」

「何言うてんのん。ぜんぜん年が合えへんやろ」

「あれから何年になるねん」

「もう25年や。あの時はほんまにゴメンな。でも、後悔はしてへんよ。
どう考えても、ついては行かれへんかったもの」

「そうか?亜紀、いつでも戻ってきてええねんで」

「ちょっと、そんな目して見つめて、何言うてんのん。結婚してるくせに。ほんまにあいかわらずやね。
それに、あんなに立派な息子さんおるのに、いい加減にしいや」

「二人が結婚するなんていうことになったら、俺ら親戚になれるなぁ」

「冗談言わんといて。イヤやで。どうせ一時的なもんやわ。若気の至り!きっと別れる(キッパリ)」

「俺らみたいにか?
こうしてまた会うのも、運命なんとちゃうか?」





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パパとママみたいにドラマティックな恋に落ちてみたい。
大阪に行けばきっと熱い何かが待っているはず、そう信じて反対を押し切って
関西の大学に進学することに決めた。

「こっちの方が大学たくさんあるのに、何で関西行かなあかんのん?」

ママはいつまでたっても大阪弁だ。私が生まれる前からここに住んでいるのに。

とにかく、実行あるのみ。
自分で下宿も決めに行かなくっちゃ。後は費用をよろしくね。

「パパもアメリカやし、美紀が関西行ったら家族離散やんか。
そや、おばあちゃんとこに下宿して学校通ったらええのんちゃう。
そしたら少しは安心やわ」

「いやよ、あんなに厳しいところに住んだら自由がないじゃないの。何のために独立するかわかんない!
ママ、いい加減に私を千尋の谷に突き落として!」

「こんなかわいらしい娘を谷なんかに突き落とせへんわ!
あんたが行ってしもたら、ママ一人で寂しいやんか。
そや、ママここにいる意味なくなるし、一緒に大阪に行くわ」

「ええ~っ!ヤダ!」

「ママもヤダ!」

駄々をこねるママを振り切って、私は関西へと旅立った。

つづく






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廃棄焼却 [創作]

どのぐらい眠っていたのだろうか?
僕は横たわったまま周囲を見回した。
無彩色のただ広いだけの部屋、天井と壁はさいの目模様になっている。
床は何か特殊な金属でできているようだ。
家具ひとつ置いていない殺風景な部屋。

考えてみる。
そもそも僕はどこから来たのだろう?
そして、何故ここにいるんだろう?

いつから動いていないのかも思い出せない。
果たして立ち上がれるのだろうか?

神経を集中して足を動かしてみた。
動いた!
ゆっくりと立ち上がると、案外天井が低いことに気がついた。
手を伸ばしたら、天井に届くだろうか?
手に神経を集中させてみる。
うまくいかない。
何故だ?

右手を見る。
右手がない。

左手を見る。
左手が存在しない。

両腕がなくなっていた。
僕は突然悲しくなってきた。

悲しいとき人は泣く。
でも、僕の目から涙は出なかった。
ただ焦燥感が広がるばかりだ。

何か楽しかったことを思い出そう。
そうだ、「家族」のことを思い出そう。

僕は家族のために料理をしたり掃除をしたり、
男の子と女の子に勉強を教えたりしていた。
「家族」に「ありがとう」と言われることがうれしくて、頭の中をフル回転させて尽くしてきた。
「しあわせ」だった。

大きな木のある、三角屋根のおうちに住んでいたはずなのに、
何故、今はこんなところにいるのだろう。。。

物音で思考が中断した。

全面が壁だと思っていたが、そのうちの一面が広く開き、轟音とともにさまざまな物が流れ込んできた。

僕は足元をすくわれて、再び倒れた状態となった。
しかも、身体の上からたくさんのものが降ってきて、荷物の中に埋まってしまった。

最初に僕の顔の上に降ってきたのは小さな人形だった。
首のとれた人形、足を失った人形、そしてその後からは、壊れた電化製品や家具。
でもそれ以上は自分が埋もれてしまったので、何がやってきたのか見えなかった。

外から声がする。
「あのロボットは分解すればパーツごとに使えたんじゃないか?」
「古すぎて使えないさ」

ドアが閉まったかわりに床が開いた。

僕は灼熱の炎の中に落ちてゆく。


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移植 The Last [創作]

今までの話

移植1
移植2
移植3
移植4
移植5
移植6

暗い店内は熱気に包まれていた。
スポットライトの下でギターを奏でる男は、静かに人々の本能を揺さぶった。

演奏がクライマックスに達したとき、男の放つ音色は情念をむき出しにして聴衆に襲い掛かってきた。
人々に恍惚のときが訪れる。

けれど、りさは男だけを見つめ続けていた。

男はりさの視線に気付き、見つめ返してきた。

りさだけを見つめて、りさだけのために演奏が続けられた。
音の中にあった大きな感情のうねりは次第に優しさに変わり、安堵の中に帰結していった。

演奏が終わり、お辞儀をすると男はまっすぐりさのところへやってきて、抱きしめた。
客たちの視線が釘付けになったが、そんなことはお構いなしだった。

しかし、りさはちっともいやではなかった。

さっきまで演奏していた男はりさの隣に座り、一方的に熱っぽく話し続けている。
普段なら演奏後、男は客に取り囲まれるのだが、男のただならぬ勢いに圧倒され二人に近づく者はいなかった。

男はりさのことをマリアと呼んだ。
しかし、りさにはそんなことはどうでも良かった。

ただただ、身体が熱かった。
自然に身体が男に寄り添っていった。
男の言っている内容は意味不明の部分が多かった。
しかし、りさにはそんなこともどうでも良かった。
何時間でも何日間でも何年でも・・・永遠に今が続けばいい、そう思った。

その夜、りさは家には帰らなかった。





翌朝早くカーテンの隙間からの光で、りさは目が覚めた。
隣には栃木清一が眠っている。

ベッドサイドの写真立ての中から、りさと同じ顔の女性が微笑んでいる。

「私はこの人の大切なマリアという人の身体を借りているのだろう」

今の彼女にとって、りさとかマリアとか、そんなことは大したことではなかった。
大切なことは、こうして生きているということ、そして居場所を見つけてしあわせな気持ちでいられるということ。

この人に理解できるかどうかはわからないけれど、自分のわかる範囲のことを伝えよう。
この人も、今までの出来事を話してくれるはず。
きっと、うまくいく。この人とならば大丈夫。

飾り気のない部屋だけれど、綺麗に片付いている。
壁際にはギターが何本も立てかけられていた。
どれも、きっとこの手で触ったことがあるに違いない。
きっとこの耳で音を聞いたことがあるに違いない。

まだ眠っているセイイチの裸の胸を指でなでてみる。
この引き締まったからだを何度も触れていたのだろう。

穏やかな気持ちを感じながら、りさはまた眠くなってきた。
彼がぐっすり眠っているから自分ももう一度眠ろう。
セイイチの腕の中で身体を丸め、今まで感じたことのない安らぎに浸りながらりさは再び眠った。

眠りながら、りさの心の中は感謝の気持ちで満たされた。
生きていて、この人に出会えてありがとう。

二人が目覚める時、すべてがスタートする。
どんなことも、この二人ならきっと乗り越えていくことだろう。
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移植6 [創作]

今までの話

移植1
移植2
移植3
移植4
移植5


落ち着かない。
2分おきに時計を見ている。
時計を見ていないときは、お店の入り口をにらみつけ、きょろきょろと視線を泳がせ、お店のドアが開くと入ってくる人を見る。
我ながら挙動不審だと思う。

りさはケンと一緒によく来たこのレストランで、以前のようにケンを待っている。

ケンから仕事の都合で少し遅れるというメールが来た。
りさは約束の時間より早く来ていたから、待つ時間が更に延びて、ドキドキする時間も延長されてしまった。
それでも、りさが最初にケンに対して話しかける言葉が決定していない。

「お久しぶり」
「私!わかる?」
「元気にしてた?」
どれも違うような気がする。

心臓が飛び出してしまいそうなほど落ち着かない時間が続く。
どうしよう、とても平静を保てない。いっそ逃げ出してしまおうか。

そんなことを思っていると、不意にお店のドアが開き、ケンが入ってきた。りさを探している。

りさは反射的に立ち上がり、ケンに向かって手を振った。

「ケン、こっちよ」

「りさ?りさなの?本当にりさなの?」

ケンはりさの側まで来ると目を丸くしてりさの顔を覗き込んだ。

「そうよ、りさよ。ずっと会いたかった」

「声も違うよ・・・
あ、座って。
とにかく注文しよう。まだ頼んでいないよね?」

とりあえず二人は料理をオーダーし、また顔を見合わせた。

「メールもらった時は信じられなかった・・・
いろいろ大変だったね。
でも、ここで現実に君に会うまでは半信半疑だった」

「どうすれば信じてもらえるかしら」

「いや、大丈夫。りさはりさだ。
ちょっとした仕草がやっぱりりさなんだ」

「じゃあ、私がわかるの?」

「勿論」

二人は食事をしながら、昔のことや今どうしているかを語り合った。
隔てられていた時は一気に消し去られ、あたかも以前と同じような親密さを取り戻したようだった。

デザートを食べ終わる頃、ケンはりさを自分の部屋に誘った。
けれど、りさはまだ体調が完全ではないことを理由に断った。
そんなことを言うつもりはなかったのに、自分でも何故そう言ったかわからなかったけれど、
まだケンのことをを受け入れられなかった。

そして、その後ケンと何度か会ったが、同じように拒み続けてしまった。

再会してから半年ほど経った頃、二人は珍しく公園で会っていた。
ケンが挨拶もそこそこに唐突に話し出した。

「実は結婚しようと思っている」

りさは自分のことだと思って身構え、そしてニコッとした。

しかし、ケンは冷たい表情で続けた。

「君と会えなくなって2年ぐらい経った頃、俺の下に新入社員が入ってきたんだけれど、
毎日ずっと長い時間一緒にいるうちに情が移ってしまったと言えばいいんだろうか。
りさには申し訳ないけれど、今のりさは見た目以外も前のりさじゃないと思う。
こんなことを言って、傷つけるかもしれないけど、最近どこの誰かわからない人って感じることがある」

「彼女がいるのなら最初にそう言ってくれたら良かったのに」

「君が生きているのならば、君と共に過ごしたかった。
でも、君に拒否されて思った。
もし、君が拒まなかったら、俺は死体を抱いていたのかと。
誰かもわからない死んだ人の身体を抱くことができるのかと。
そんなことを考えている俺の側には生身の彼女がいた。
過去は過去として・・・」

ケンが言い終わらないうちに、りさは走り出していた。

青い空の下を、緑の風の中を、生きているのに死体と言われて、泣きながら走り、歩き、立ち止まり、
また歩いた。
そのまま夕日の中を歩き、ずっと歩き続け、夜の街を歩き、涙も枯れて落ち着きを取り戻し、
うちに帰ろうと思った。
両親が心配して待っている家に帰ろうと。

一日中歩いて遠いところまで来てしまったけれど、帰らなければ。
タクシーを拾おうと思い、立ち止まった。
そこは一軒の店の前で、ドアが少し開いたとき、中から音楽が聞こえてきた。

「これ、聞いたことがある」

お店の前のボードに「栃木清一ライヴ」と書いている。

そんなことにも気付かず、りさは音のする方に吸い込まれていった。

つづく

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移植5 [創作]

これまでの話

移植1
移植2
移植3
移植4

あれから何年も経っているのでアドレスが変わっているかもしれないけれど、
ダメでもともとという気持ちで彼にメールを送る。

「ケン、ご無沙汰しています。りさです。
突然ごめんなさい。でもひとこと言いたくって。
私すっかり元気になりました。
もし迷惑でなければ、連絡ください」

とりあえず、送信できた。しかし、アドレスが変わってないことと返信が来るかどうかは別の話。
もう彼には別の彼女がいるだろう。もしかしたら結婚しているかもしれない。
そうだとしたら彼にとって本当に迷惑メールになってしまう。

いや、別に古い友人としてメールだけやり取りすることは可能だし、
それならば今の自分の姿を知られることもなく好都合とも言える。
でも、やはり会いたい。

昔のアルバムを見ながら彼との日々を思い出す。
けれど、写真の中で笑っている自分はもう存在しない。

そろそろ将来のことを考えないといけないけれど、何をするにせよ彼にきちんと仁義をきっておきたかった。
結婚寸前に勝手に病気になって、いきなり姿を消してしまったのだから。
婚約して幸せの絶頂のときに突然倒れ、それからりさは意識の中だけで生き、
何度か会いにきてくれた彼のことを認識することさえできなかった。
そのまま二人の間はフェイドアウト。
両親は彼のことについて一切ふれない。
彼はどこまで知っているのだろうか。
よもや別人の身体を借りて生きているなどと想像もつかないだろう。



二日後の同じ時刻、りさと雪美はコンサートの余韻に浸りながらダイニングバーで遅い夕食をとっていた。

雪美が言う。
「最後の曲なんてゾクゾク身震いしちゃってこのままどうにかなっちゃいそうって思ったの。
でもね、終わってからあなたを見ると顔がボロボロになるぐらい泣いてたでしょ。
それを見たら笑えて、感動がどこかへ吹き飛んじゃったわよ」

「だって、栃木清一が出てきただけで最初から涙が出て止まらなかったんですもの。
2時間近くずっと泣き続けていたことになるのよ」


「演奏前から泣いてたってこと?信じられない!どうして?
演奏はどうだったの?」

「不思議なんだけど、とても懐かしかったの。曲も音色も、あの人も。
はじめて来たコンサートなのに、以前に何度も来たことがあるようなデジャヴ感があったの。
変でしょ?」

「ふーん。知らない外人さんからも声をかけられるし、不思議な体験コンサートだったわけね」

「うん」と言いながら、りさは固まってしまった。
もしかしたら、この身体の前の持ち主と何か関係があるのだろうか。
この耳であの曲を聴き、この口であの女の子と話していたのかもしれない。
そうだとすれば、深入りすると面倒なことになる。
この身体の人が昔どうだったかなんて、知ってはならないことなんだ。

「どうしたの?」
雪美に声をかけられてりさは我に帰り
「最後の曲が頭の中を駆け巡っていたの」
と言ってごまかした。

そのときメール着信の音がした。

意外にもケンからのメールだった。

「ちょっとごめんね」
りさは雪美に断ってから、メールを読んだ。
内容は是非会いたいということ。
りさの心は期待と不安でいっぱいになった。

「雪美、男の人が何年も前に別れた彼女と再会するときってどんな気持ちだと思う?」

彼に何から説明すればよいのだろう。
何の情報も伝えずにいきなり会っては相手もとまどうはず。
ある程度、説明してから会わねば。
でも、理解できるんだろうか。

しかし、怖れる気持ちよりときめく気持ちの方が勝った。

つづく


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移植4 [創作]

今までの話

移植1
移植2
移植3



清一は全神経を集中させて演奏した。
まるで身体と楽器が一体化したように、ギターから奏でられる音色は清一の感情そのものだった。
悲しくて、寂しくて、そして情熱的だった。
その音色は聴く者全ての胸の奥に深く突き刺さっていった。

最後の曲が終わったとき、清一は空っぽになっていた。
空っぽの身体を無理やり動かして、お辞儀をしてステージを降りた。

大きな拍手がアンコールを求める手拍子に変わったとき、深呼吸で空っぽの胸に命をそそぎこみ再びステージに立った。
そして、また全身全霊を込めて音を紡ぎだした。

アンコール2曲目、滅多にMCなどいれない清一が口を開いた。
「最後にマリアという曲です。もし、彼女がこの曲を聴いていたら、僕のところに戻ってきてくれますように」

切ないメロディに小刻みなアルペジオが絡み始める。リズムは少しずつ激しくなっていった。
クライマックスではフラメンコ調になり、そして、エンディングでまた音数が減ってゆく。
ハーモニックスの単音が余韻を残し、コンサートをしめた。

水を打ったように静かだった客席からブラボーの声があがり、拍手と歓声が沸きあがった。

そんな中、清一は静かにお辞儀をするとステージをあとにした。

楽屋に入るとヘタっと座り込んだ。

マリア、君に気づいてもらえたらと思って、早すぎるリサイタルを開いた。
今後もライブハウスを中心に演奏活動を続ける。
早く会いに来て欲しい。早く帰ってきて欲しい。

ペットボトルの水を一気に飲み干したあと、寝転んで天井を仰いでいた。

そのとき、ノックの音がした。



「どうぞ」

ドアが開き、見知らぬ外国人の女性が入ってきた。
「セイイチ、素晴らしい演奏だったわ。ワタシはマリアのトモダチのジョアンナ」

「ジョアンナ、マリアはどこにいるの?」

「マリアはしばらくワタシのアパートに住んでいたけれど、突然いなくなったの。
日本に来てどんどんやつれていくのが心配で、病院に行った方がいいって言ったけど、
毎日どこか出かけていって、最後の日も凄く疲れた顔をしていたから、外出はやめなさいって
言ったけれど、言うことを聞かず出かけて、それっきりいなくなったの」

「警察に言ったの?」

「警察、キライ。でも、さっきマリアを見た」

「えっ?マリアが来たの?」

「でも声をかけたらマリアじゃないって言う。
言葉も違う。知らない日本の女の子と来てたからタニンノソラニ?」

「でも、マリアに見えたんだろう?」

ジョアンナは何か返事をしたようだったが、そのときには清一はもう楽屋を飛び出していた。

けれど、ホールに近づいた途端、ファンに捕まり、誰かを探しに行ける状態ではなくなってしまった。


つづく


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移植3 [創作]

今までの話
移植1
移植2


私は今、家にいる。
両親は「諦めなくてよかった」と言って大層喜んでくれている。

窓を開けると鳥のさえずりが聞こえ、太陽の光がさんさんと降り注ぐ。
私は今、しあわせだ。


あれから退院するのに1年かかった。
最初、肺も胃も腸も、あらゆる臓器が私を拒否していた。
一つずつ克服して、やっと食べられるようになったと思って喜んでいたら、
突然、高熱に襲われ数週間意識を失ったこともあった。

けれど、歩けるようになった頃から毎日が楽しくなってきた。
動けて話せるようになると、病院内に友達ができた。

雪美は私より先に退院したけれど、ほぼ毎週、通院のついでにお見舞いに来てくれて、
2時間ほどおしゃべりしていった。


そうそう、今日は雪美がうちに遊びに来てくれる。
実は、私の諸々の事情は伝えていない。
あまりにもショッキングな話なので言い出せずにいた。
お互いの病気については話題にしなかったので都合がよかった。


退院が決まった頃、
「今度ギタリストの栃木清一のリサイタルがあるんだけど、一緒に聴きにいってみない?」
雪美に誘われた。
聞いたことのない名前だった。
私がポカンとしていると、雪美は更に続けた。
「ブラジルで活躍していたんだけど、拠点をこちらに移すことにしたようなの
凱旋コンサートってとこかしら。
すごくいいわよ。
コンサートはまだ先だし、体の具合が悪くなければ是非行きましょうよ」

今日はそのCDを持って来てくれるらしい。

チャイムが鳴った。来たみたい。
少し前までは階段の昇り降りも大変だった。
けれど、今は自分で玄関まで出ることができる。

「いらっしゃい」
雪美はこの間会ったときより随分日焼けしていた。
外出できるっていいなと思う。
私ももう少し!

「持ってきたわよ」

「雪美さん、いらっしゃい」母が出てきた。
「お邪魔します」
「いつもありがとうね。りさはあなたがいらっしゃるのをとても楽しみにしているの。
えっと、コーヒーと紅茶とどちらがいいかしら」
「どうぞお構いなく」
「美味しいケーキをいただいたのよ。あとでお持ちするわね」

二人で2階の私の部屋に行き、雪美の持ってきたCDをセットした。

繊細なアコースティックギターの音色が聞こえる。
はじめて聞くはずなのに何だか懐かしい。
胸の奥がジーンとしめつけられるようだ。

「私、聞いたことがあるかも。CMか何かで使われている曲なのかしら?」
「そんなはずないわよ。これは新曲だもの。何か似ている曲があるのかしら?」
「わかんない・・・でも、私これ好きよ。コンサートに連れて行ってね」
「気に入ってくれて良かった」

3曲目はアップテンポのサンバ調の曲だった。

母がケーキとコーヒーを持って来て部屋のドアを開け、目を丸くしていた。

私は無意識のうちに踊っていた。かなり激しく!

つづく
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