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移植4 [創作]

今までの話

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清一は全神経を集中させて演奏した。
まるで身体と楽器が一体化したように、ギターから奏でられる音色は清一の感情そのものだった。
悲しくて、寂しくて、そして情熱的だった。
その音色は聴く者全ての胸の奥に深く突き刺さっていった。

最後の曲が終わったとき、清一は空っぽになっていた。
空っぽの身体を無理やり動かして、お辞儀をしてステージを降りた。

大きな拍手がアンコールを求める手拍子に変わったとき、深呼吸で空っぽの胸に命をそそぎこみ再びステージに立った。
そして、また全身全霊を込めて音を紡ぎだした。

アンコール2曲目、滅多にMCなどいれない清一が口を開いた。
「最後にマリアという曲です。もし、彼女がこの曲を聴いていたら、僕のところに戻ってきてくれますように」

切ないメロディに小刻みなアルペジオが絡み始める。リズムは少しずつ激しくなっていった。
クライマックスではフラメンコ調になり、そして、エンディングでまた音数が減ってゆく。
ハーモニックスの単音が余韻を残し、コンサートをしめた。

水を打ったように静かだった客席からブラボーの声があがり、拍手と歓声が沸きあがった。

そんな中、清一は静かにお辞儀をするとステージをあとにした。

楽屋に入るとヘタっと座り込んだ。

マリア、君に気づいてもらえたらと思って、早すぎるリサイタルを開いた。
今後もライブハウスを中心に演奏活動を続ける。
早く会いに来て欲しい。早く帰ってきて欲しい。

ペットボトルの水を一気に飲み干したあと、寝転んで天井を仰いでいた。

そのとき、ノックの音がした。



「どうぞ」

ドアが開き、見知らぬ外国人の女性が入ってきた。
「セイイチ、素晴らしい演奏だったわ。ワタシはマリアのトモダチのジョアンナ」

「ジョアンナ、マリアはどこにいるの?」

「マリアはしばらくワタシのアパートに住んでいたけれど、突然いなくなったの。
日本に来てどんどんやつれていくのが心配で、病院に行った方がいいって言ったけど、
毎日どこか出かけていって、最後の日も凄く疲れた顔をしていたから、外出はやめなさいって
言ったけれど、言うことを聞かず出かけて、それっきりいなくなったの」

「警察に言ったの?」

「警察、キライ。でも、さっきマリアを見た」

「えっ?マリアが来たの?」

「でも声をかけたらマリアじゃないって言う。
言葉も違う。知らない日本の女の子と来てたからタニンノソラニ?」

「でも、マリアに見えたんだろう?」

ジョアンナは何か返事をしたようだったが、そのときには清一はもう楽屋を飛び出していた。

けれど、ホールに近づいた途端、ファンに捕まり、誰かを探しに行ける状態ではなくなってしまった。


つづく


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kyao

ますます続きが楽しみになってきました。(^^)
期待してお待ちしてます!(^^)
by kyao (2008-05-11 07:54) 

りんたろ

kyaoさんへ
いつもありがとうございます♪
ボチボチとね!
by りんたろ (2008-05-12 20:08) 

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