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移植 The Last [創作]

今までの話

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暗い店内は熱気に包まれていた。
スポットライトの下でギターを奏でる男は、静かに人々の本能を揺さぶった。

演奏がクライマックスに達したとき、男の放つ音色は情念をむき出しにして聴衆に襲い掛かってきた。
人々に恍惚のときが訪れる。

けれど、りさは男だけを見つめ続けていた。

男はりさの視線に気付き、見つめ返してきた。

りさだけを見つめて、りさだけのために演奏が続けられた。
音の中にあった大きな感情のうねりは次第に優しさに変わり、安堵の中に帰結していった。

演奏が終わり、お辞儀をすると男はまっすぐりさのところへやってきて、抱きしめた。
客たちの視線が釘付けになったが、そんなことはお構いなしだった。

しかし、りさはちっともいやではなかった。

さっきまで演奏していた男はりさの隣に座り、一方的に熱っぽく話し続けている。
普段なら演奏後、男は客に取り囲まれるのだが、男のただならぬ勢いに圧倒され二人に近づく者はいなかった。

男はりさのことをマリアと呼んだ。
しかし、りさにはそんなことはどうでも良かった。

ただただ、身体が熱かった。
自然に身体が男に寄り添っていった。
男の言っている内容は意味不明の部分が多かった。
しかし、りさにはそんなこともどうでも良かった。
何時間でも何日間でも何年でも・・・永遠に今が続けばいい、そう思った。

その夜、りさは家には帰らなかった。





翌朝早くカーテンの隙間からの光で、りさは目が覚めた。
隣には栃木清一が眠っている。

ベッドサイドの写真立ての中から、りさと同じ顔の女性が微笑んでいる。

「私はこの人の大切なマリアという人の身体を借りているのだろう」

今の彼女にとって、りさとかマリアとか、そんなことは大したことではなかった。
大切なことは、こうして生きているということ、そして居場所を見つけてしあわせな気持ちでいられるということ。

この人に理解できるかどうかはわからないけれど、自分のわかる範囲のことを伝えよう。
この人も、今までの出来事を話してくれるはず。
きっと、うまくいく。この人とならば大丈夫。

飾り気のない部屋だけれど、綺麗に片付いている。
壁際にはギターが何本も立てかけられていた。
どれも、きっとこの手で触ったことがあるに違いない。
きっとこの耳で音を聞いたことがあるに違いない。

まだ眠っているセイイチの裸の胸を指でなでてみる。
この引き締まったからだを何度も触れていたのだろう。

穏やかな気持ちを感じながら、りさはまた眠くなってきた。
彼がぐっすり眠っているから自分ももう一度眠ろう。
セイイチの腕の中で身体を丸め、今まで感じたことのない安らぎに浸りながらりさは再び眠った。

眠りながら、りさの心の中は感謝の気持ちで満たされた。
生きていて、この人に出会えてありがとう。

二人が目覚める時、すべてがスタートする。
どんなことも、この二人ならきっと乗り越えていくことだろう。
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poi

はぁう~~~~♪
by poi (2008-05-19 00:46) 

kyao

これで完結したんですね。何と言うか…昔、同じようなSFを見たことがあるので、そんなことを思い出したり…「やっぱり、人間は外見に左右されてしまうことが多いんだろうなあ」と想像してみたり。
とっても楽しい思いをさせていただきました。りんたろさん、どうもありがとうございました!(^^)
by kyao (2008-05-19 08:39) 

りんたろ

poiさんへ
万物は「はぁう~」へ(違)
「宇宙に比べれば宿題なんて大したことじゃないby息子」=宇宙に比べれば自分とか他人とかの境界線もどうでもいいのかも・・・
最後まで読んでいただいてありがとうございました。

kyaoさんへ
こちらこそありがとうございました。
生きていれば人は変わっていくし、イヤなことは良いことに飲み込まれ、大きな流れとしては良い方向に変わっていくと信じて希望を持って日々を過ごしていきましょう♪

ばんさんへ
ご訪問&niceありがとうございました♪
by りんたろ (2008-05-28 22:36) 

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