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移植5 [創作]

これまでの話

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あれから何年も経っているのでアドレスが変わっているかもしれないけれど、
ダメでもともとという気持ちで彼にメールを送る。

「ケン、ご無沙汰しています。りさです。
突然ごめんなさい。でもひとこと言いたくって。
私すっかり元気になりました。
もし迷惑でなければ、連絡ください」

とりあえず、送信できた。しかし、アドレスが変わってないことと返信が来るかどうかは別の話。
もう彼には別の彼女がいるだろう。もしかしたら結婚しているかもしれない。
そうだとしたら彼にとって本当に迷惑メールになってしまう。

いや、別に古い友人としてメールだけやり取りすることは可能だし、
それならば今の自分の姿を知られることもなく好都合とも言える。
でも、やはり会いたい。

昔のアルバムを見ながら彼との日々を思い出す。
けれど、写真の中で笑っている自分はもう存在しない。

そろそろ将来のことを考えないといけないけれど、何をするにせよ彼にきちんと仁義をきっておきたかった。
結婚寸前に勝手に病気になって、いきなり姿を消してしまったのだから。
婚約して幸せの絶頂のときに突然倒れ、それからりさは意識の中だけで生き、
何度か会いにきてくれた彼のことを認識することさえできなかった。
そのまま二人の間はフェイドアウト。
両親は彼のことについて一切ふれない。
彼はどこまで知っているのだろうか。
よもや別人の身体を借りて生きているなどと想像もつかないだろう。



二日後の同じ時刻、りさと雪美はコンサートの余韻に浸りながらダイニングバーで遅い夕食をとっていた。

雪美が言う。
「最後の曲なんてゾクゾク身震いしちゃってこのままどうにかなっちゃいそうって思ったの。
でもね、終わってからあなたを見ると顔がボロボロになるぐらい泣いてたでしょ。
それを見たら笑えて、感動がどこかへ吹き飛んじゃったわよ」

「だって、栃木清一が出てきただけで最初から涙が出て止まらなかったんですもの。
2時間近くずっと泣き続けていたことになるのよ」


「演奏前から泣いてたってこと?信じられない!どうして?
演奏はどうだったの?」

「不思議なんだけど、とても懐かしかったの。曲も音色も、あの人も。
はじめて来たコンサートなのに、以前に何度も来たことがあるようなデジャヴ感があったの。
変でしょ?」

「ふーん。知らない外人さんからも声をかけられるし、不思議な体験コンサートだったわけね」

「うん」と言いながら、りさは固まってしまった。
もしかしたら、この身体の前の持ち主と何か関係があるのだろうか。
この耳であの曲を聴き、この口であの女の子と話していたのかもしれない。
そうだとすれば、深入りすると面倒なことになる。
この身体の人が昔どうだったかなんて、知ってはならないことなんだ。

「どうしたの?」
雪美に声をかけられてりさは我に帰り
「最後の曲が頭の中を駆け巡っていたの」
と言ってごまかした。

そのときメール着信の音がした。

意外にもケンからのメールだった。

「ちょっとごめんね」
りさは雪美に断ってから、メールを読んだ。
内容は是非会いたいということ。
りさの心は期待と不安でいっぱいになった。

「雪美、男の人が何年も前に別れた彼女と再会するときってどんな気持ちだと思う?」

彼に何から説明すればよいのだろう。
何の情報も伝えずにいきなり会っては相手もとまどうはず。
ある程度、説明してから会わねば。
でも、理解できるんだろうか。

しかし、怖れる気持ちよりときめく気持ちの方が勝った。

つづく


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kyao

うーん…いよいよ波乱の幕開けな感じですね。
途中の描写は何となくりんたろさんご自身の真情みたいなものが綴られている気がして、ちょっち複雑な感じがしました。
by kyao (2008-05-13 08:15) 

poi

う~~~~一気に読み切りたい!!
ウズウズウズウズ!!
つづきを早く早く早く 待ち遠しい!
by poi (2008-05-13 23:57) 

りんたろ

kyaoさん、そ、そうですか?
う~ん、最近、何故か千原ジュニアがとても身近な存在に感じるのでした。

poiさん、ありがとう♪
結末変更して、もうすぐ終わる予定です。
by りんたろ (2008-05-16 20:25) 

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