移植2 [創作]
りさ)
闇の中を歩いている。何だかとても息苦しい。
そうだ、もう何日間も歩き続けているような気がする。
どこに向かっているのだろう。
小さな光が見える。
あそこに辿り着きさえすれば、きっとここから抜け出せるに違いない。
ここから?
ここは一体どこなんだろう。
たくさんの人が横たわっている。
死体?
そんなはずはない。
だって、人の声がするもの。
何て言ってるのだろう。
確かに人のいることはわかるけれど、何を言っているのか聞き取れない。
お願いもっとはっきり話してよ。
そこに誰かいるんでしょう?
「・・・」
「・・・・・」
「・・・さん」
「・・・りささん!」
扉が開いた。いいえ、開いたのは私の瞼だった。
薄らぼんやりと白衣を着た人たちが見える。
「りささん、気がつきましたか?」
りさ?そんな名前だったような気がする。
遠いところから帰ってきた。
相変わらず息苦しいけれど。
そうだ、私はりさ。
生きている!
何か言いたかったが、声が出なかった。
うれしくて飛び起きたかったが、身体が動かなかった。
「ゆっくり身体に慣れていこうね」
もやの中から白衣の男性が優しい声でそう言った。
私は視線でうなづくことしかできなかった。
どうやら、私は例の女の子の身体をもらうことに成功したようだ。
ただ、今のこの状態を考えると、体を使いこなすことは一筋縄ではいかないかも。
どうも呼吸さえ機械のお世話になっているようだ。
本当に動けるようになるんだろうか。
動けるようになったとしても障害が出たらどうしよう。
そもそも、これは現実なんだろうか?
単に、長い夢の一つなのかも。
いろいろと考えているうちに、疲れて気が遠くなっていく。
とりあえず眠ろう。
セイイチ)
トーキョー、久しぶりに戻ってきた。
きっと、彼女はここに来ている。そして、人の多さに驚いたことだろう。
もしかしたら、僕と結婚したら将来的にこのようなところで生活しなければならないことに嫌気がさしているかも。
もっと早く気付いて、一緒に来ればよかった。
そうすれば、よいところばかり案内して、不安な気持ちにさせなかったのに。
早く見つけなければ。
言葉もわからずに困っているに違いない。
彼女と話したこと、彼女が興味を持ちそうなこと、彼女が行きそうな場所を考える。
今更のように、何も考えずに帰ってきてしまったことに気付く。
何の計画性もなく帰国してしまった。
でも、似た者同士。彼女も行き当たりばったりなのかも。
どのホテルにチェックインしたんだろう。
いや、長く滞在するのならば友人を頼って来ているはずだ。
友人が何人かトーキョーにいると聞いている。
友人のアパートから日本語を習いに行っているかもしれない。
友人の家がわからないから、学校から当たってみるのがいいだろうか。
こんな人の多いトーキョーで、彼女一人を探すなんて途方もない話だ。
だけど、きっと探し出すからね、マリア!
つづく
移植 ー身体は誰のものー [創作]
3年前、私の身体は病に侵され、滅びた。
当時入院していた大学病院で実験的に脳だけ取り出され、保管されている。死んでいく瞬間に私の脳は身体から切り離されて、今はコンピューターにつながれ、ふさわしい身体が見つかる日を待っている。
脳が退化しないように、さまざまな刺激が与えられ、外部との意思の疎通も確保されている。病気の身体を動かしていた頃に比べれば、苦痛のない分、楽ではあるけれど、一人だけ狭いところに閉じ込められているような感覚はある。
早く身体の自由を手に入れて、手の触れることのできる外界と接してみたい。
青い空、さわやかな風、あるいは痛いほどの日差し、冷たい雨・・・今ではすべてが記憶の彼方の懐かしい思い出でしかない。それらが現実であったのかどうかも定かでなくなるほど、今の生活が長いトンネルのように長く感じる。
セイイチ)
僕は彼女を捜している。
ある日、突然僕の前から姿を消してしまった。別れる話などしていなかったし、いなくなる原因なんて誰にも見当たらない。彼女の家族にさえ何も言わずに消息を絶った。何か事件にでも巻き込まれたのだろうか。警察に届けているが、情報は全くない。
実はプロポーズしようと思って指輪を準備した矢先のことだった。結婚を意識し始めた途端、逃げ出したくなる心理状態について話に聞いたことはある。それならそれで、僕は待つことができたのに。何年も付き合っていたのに、彼女のことを理解できていなかったのだろうか。
嫌になったらなったで責めはしないから、とにかく君に会いたいんだ。僕にとって、どんなに君が大切な人か、いなくなって思い知った。君を思わない日はない。どうか戻ってきてくれ。こんな残酷な日々は耐えられない。
りさ)
身元不明で脳死状態の女の子がICUに入院しているらしい。この状態は長くは続かないからって先生たちが言っている。
私が身体をいただいちゃうことになるかも。
でも、他人の身体を動かすってどんな風なんだろうか。ものすごく不安。まるで私が霊魂で、その子に乗り移るみたいでしょう?そうなったら私の家族はどんな気持ちなんだろうか。
わがままは言えないけれど、綺麗な子だったらいいなと思う。
ケンのこと、両親は何も言わないから、私が死んだと思って、きっと他の子と付き合っているのだろう。私が生き返ってもきっと振り向いてくれないだろうね。だって、私は他人の顔で再会するんだから。
勿論、彼に会いに行こうと思っている。私だってこと、どうやってわからせることができるのか、よみがえるまでの時間にゆっくり考えようと思う。
マリア)
意識が薄れていく。もうダメかもしれない。
最後にセイイチに会いたかったけれど、もう何もかも考えることさえ辛くなってきた。
同じ情景だけが繰り返し繰り返し目の前に現れる。
セイイチの生まれた日本、そこは私の祖先の国。セイイチともし一緒に行くのならば、その前に自分で確かめておきたかった。だから一人でやってきたのに。
そこは、思ったような場所ではなかった。祖父母から語り継がれたような土地ではなかった。
トーキョーは人ばかり多いけれど無機質で、自分はここには住めないと思った。
人の中を歩いて、歩いて、どこまでも歩いて、今も歩き続けているような気がする。どこまで歩いても故郷に辿り着けない。
もう疲れた。休みたい。休ませて欲しい。眠い。そう、眠るのが一番いい。
セイイチの顔を思い出した。それでいい。このままずっと眠ることにするよ。ね、セイイチいいでしょ?
つづく
GAME(フィクションです) [創作]
もう日が沈んでもよい時刻なのに、夕日は暑く俺を焼け焦がそうとする。やたらと天気の良かった今日、だけど俺の心はいつもと同じく沈み気味。汗をかきながらとぼとぼと上り坂を歩く。
大学を卒業して1年半、一流とは言えないけれどまあまあの業績の会社に勤めていた。給料も悪くはなかったし、通勤時間も短く、入社してしばらく、研修期間中は楽しくやっていた。けれど、配属先はノルマノルマ、おまけに上司の課長と言えば、いつも怒鳴ってばかりで人を人とも思わない態度。人として許せないそいつに俺は辞表を叩きつけてやった。
そこまでは我ながらカッコよかったと思っている。友達の間では武勇伝だった。しかしその後3年たっても、俺のハローワーク通いは終わらない。
何か資格でも取ろうと思うけれど、大学4年間ですら楽で生ぬるい生活を送ってきたのに、今更どんな努力ができるだろう。家に帰れば母親が「お帰り」も言う前に、「どうだった?いいところ見つかったかしら?」とお決まりのセリフで出迎える。
気が重ければドアも重い。家に帰るのはイヤだけれど、もともと大してたまってもいなかった貯金は底をつき、家に帰る以外どこにも行くところなどありはしない。
今日、一つ面接を受けてきたが、くどくどと前の会社を辞めた理由ばかりを聞かれて閉口してしまった。何も好きで辞めたわけでもないのに、面接官の能面に薄ら笑いをはりつけたような表情はまるで俺をからかっているようだった。挙句の果てに他をさがしてって、そんなことなら履歴書を見てすぐに断ればいいじゃないか。むかついて、ぶん殴ってやりたかった。
「ただいま」
か細い声で一応の挨拶をして2階の自室へと向かう。母親に聞こえたのか聞こえなかったのか。いつもの「どうだった?」は問われずにすんだ。
早速、新しいゲームにチャレンジしてみよう。先週、友達から借りた単純な格闘技ものだ。こういうむしゃくしゃした気分のときにはこういうのが一番すっきりするさ。何百人をなぎ倒して憂さを晴らすつもりだ。
さあ、準備完了。
あれ、敵のキャラが今日の面接官そっくり。ちょうどいい、こてんぱんにやっつけてやるさ。でも奴は逃げるばかり。その代わりに雑魚どもが襲い掛かってくる。構うもんか、雑魚どもを1匹ずつ一発でしとめ、面接官を追い詰めていく。必殺技でも持っているんだろうか。罠が待っているのだろうか。追い詰められても相変わらず薄ら笑いを浮かべたままで余裕の表情だ。ああ、むかつく。
爪で顔面を引き剥がし、身体をひきちぎってやった。
「よっちゃん、ゴハンできたわよ。お父さん今日は遅いから先に食べましょう」
階下から母親が大声で怒鳴っている。
何で現実に引き戻すんだ。奴の断末魔が見られなかったじゃないか。
気付くとすでに次の画面に変わっていた。
よく見ると敵は女、「どうだった?」と聞いている。何で?
母親じゃないか。
毎日毎日、同じことばかり言っているんじゃないよ。けして手を抜いているわけじゃないんだ。俺なりに一生懸命やってきて結果が出ていないだけじゃないか。好きでこんな生活しているわけじゃないんだ。それなのに、ぐちぐちと追い詰めるようなことばかり言って、親だったら思いやりを持って息子のことを考えろ!ニートの息子が恥ずかしいだけなんだろ?自慢の息子でいてほしいとしたら大間違いだぞ。オマエの思い通りなんかになりはしない。
むらむらと腹が立ってきた。
アゴにパンチ一発、腹にケリを入れたらそれだけで血を噴きながらあえなく倒れた。
悲しそうな目をしながら、しつこくこちらを向いて何か言おうとしていたが、パワー不足で何を言っているのかわからない。そのうちにその姿もフェードアウトしていった。
そして、画面が変わった。
そこには階段が迷路のようにつながっている。そして俺ソックリの奴らが何十人も待ち構えていた。
俺が俺を倒すのか?
ゲームなのだからやるしかない。今までパワーを蓄えているのだから、負けることはないさ。地道に一人ずつ倒していくしかない。
弱い俺、根性なしの俺、ワガママな俺、我慢できない俺・・・何十人の俺を倒しまくった。
いつもと違って、物凄い疲労感だ。最後の一人を倒したと思ったとき、背後でドアが開いた。
そこにはもう一人、俺が立っていた。それは強くなった俺、何にも負けない俺、成長した俺。
こいつを克服すればもう怖いものなどありはしない。
深夜、すっかり遅くなってしまった。ほろ酔い気分の男は自分の家の玄関を開けた。鍵はかかっていない。妙にドアが重い。
何か異様な気配だ。あかりはついているが、1階には誰もいなかった。
階段に妻が倒れている。ひどい暴力をふるわれたようだが、口から流れた大量の血はもう乾いている。生きているのか?救急車を呼ばなければ。
一体、何があったんだ。気が動転している。息子はどこにいるんだ?名前を呼びながら2階の息子の部屋に向かう。
そこには何時間もリンチにあい続けたとしか思えない、ボロ布のような姿になった息子が息絶えていた。しかし、不思議なことに腫れあがった顔は笑みを浮かべているように見えないこともない。
その表情は穏やかなものだった。
ゲームのやりすぎに気をつけましょう! by 母
エピソード1-7(フィクションなので登場人物は架空です) [創作]
終わりははじまりへ
ハツの一族は何百年も前に、鬼だの悪霊だのと言われて滅ぼされた。生き残った数少ない者たちは、各地に散らばった。
ひっそりと目立たぬように、運がよければ、どこかの家族にもぐりこみ生き延びてきた。しかし、どこかの家族で受け入れられたとしても、年を取らなかったり、ずっと生き続けることを怪しまれる前に立ち去らなければならなかった。そのせいで、他人に対しては非情にならざるを得なかった。どんなに居心地がよくても、そこに留まることはできなかった。
ここ数年、ハツは普通に年をとることができるようになった。それで普通に誰かの家族となり、「男」を愛することもできた。相手がたまたま「普通の」相手ではなかっただけで、ハツにとっては一番安堵できた日々だった。
エピソード1-6(フィクションなので登場人物は架空です) [創作]
火の中
久々に男と出かける。うれしかった。
出かけることも嬉しかったが、それよりも男の心が自分から離れていないことが確認できて安堵の気持ちが大きかった。もともとは憎んでいたのに、今はなくてはならない存在、長い間生きてきて、自分にとって誰よりも大きな存在になっている、このことはハツ自身信じられないことだった。今、男に捨てられたら気が狂ってしまうかもしれないと思った。
今までそうしていたように、ハツは鎧兜を身につけた。自分の体調を考えるととてもそのようなことはしてはならないとわかっていたが、とにかく男と共に出かけたかった。戦がらみで出かけるときは、おなごの姿では同行できない。
いつものように馬に乗り、男や男の供の者たちと進んだ。湖畔を離れ、山を越え、都に入った。その間、休憩と言えば男が気が向いたときだけ、あいかわらずの強行軍である。
ハツは都が好きだ。今まで何度も都に住んだことがあるような気がする。あちらこちらに思い出が詰まっているような、そんな場所である。しかし、勿論、男と共に都に入るのははじめてである。
目的地である寺に到着した後、ハツは一部屋を与えられ、着物に着替えた。そして最後に南蛮の織物を縫った打掛を羽織った。金銀の花や蝶の刺繍の施された豪華な衣装だ。伴天連からの貢物なのか、男が大層自慢げにしていた布であったが、いつの間にか打掛として仕立てられてハツの荷に紛れ込んでいた。このようなやり方でしか贈り物ができないのだろうか。ハツは時々男のことがよくわからなくなる。
その夜、男は部屋にやって来なかった。ハツは疲れていたので、ぐっすり休むことができた。男に打ち明けなければならないことがある。打ち明ければこの先、戦についていくことはできなくなるだろう。しかし、隠し通すわけにはいかない。
寺ではのんびりと過ごした。茶を嗜んだり、庭で歌を詠んだりもした。男と過ごすときは、必ず他の者も共におり、二人きりなることはできなかった。
数日が過ぎ、ハツはもてあましていた。戦に行くのではなかったのか。ハツは出陣できない、そのことを伝えなければならないのに、話す機会がないではないか。
一人の夜は長かった。眠れない、眠れない。もう朝だろうか。小鳥が鳴いているのか。遠くからざわめきが聞こえてくる。ざわめきが近づいてくる、近づいてくる。何だろう?まだ外は暗いのに人の気配が強まってくる。不吉だ。
ざわめきはどよめきに変わった。寺中が大騒動になっている。どうしたのだろうか。ハツは身支度して部屋を出ようとした。そこに男がやってきた。
「そなたはそこに隠れていろ」
「このような時間になにごとでございますか」
「気にせずともよい。大事な身体なのだから、危険なことには近づかずそこに隠れておれ。騒ぎはすぐに収まる」
男は、ハツの身体の変化を知っていた。そして、いたわってくれている。ハツは嬉しかった。しかし、この尋常ではない騒ぎは戦ではないのか。
男は表に出て行った。ハツは待っている。とても長い時間待っている。
やがて、火の手があがった。
エピソード1-5(フィクションなので登場人物は架空の人物です) [創作]
霧の中
霧の中、母に手をひかれて歩いた。もう何里も歩いてきた。あとどのぐらい歩くのだろう。
疲れきって、もう一歩も歩けない、そう思ったとき、遠く懐かしい景色が開けてきた。幼い頃に過ごした村、しかしそこには住む人もなく寂れた貧しい小屋が建ち並ぶだけだった。
廃墟の中を歩く。人気のない家々。その中の一軒に入っていく。
シーンと静まり返ったその家には大勢の人が集まっていた。
そして貧しい身なりの人々に囲まれて横たわる一人の男。息も絶え絶えで今にも死にそうだ。
「父さん」少女は叫んだ。死にかけているのは、確かに少女の父親だ。
幼い頃に母親に連れられて、この家を出た。何年ぶりにめぐり合えたのだろう。でも、命の灯が消えかけている。意識はあるのだろうか。自分が帰ってきたことに気がついているのだろうか。
少女は男の手を優しく握った。男は一瞬、目を見開いたかに見えた。少女にはそれがはっきりわかった。
たった一瞬だけの再会だった。
男は目を閉じ、亡くなった。
人々が歌いだした。
「人を食らわば、1000年の命、愛する者を食らわば1000年の若さ」
そして、この世のものとは思えぬ光景が広がった。
少女は母親に命じられて、その宴に参加せざるを得なかった。
恐ろしい出来事は霧の中に消えていった。
エピソード1-4(フィクションなので登場人物は架空です) [創作]
ハツの顔は恐怖にゆがんでいた。
老婆は言う。
「血を絶やすな。子を産み、この国、この世界に我が血筋を広めるのじゃ。あの男をそなたの意のままにし、利用せよ」
「おまえなどの指図は受けぬ」
思い直したハツは刀を取り、老婆を切りつけようとした。しかし一足早く老婆の姿は見えなくなっていた。
ハツはがっくりと膝をついた。自分の運命から逃れる道はないのか。生まれてから今まで、けして心安らぐことはなかった。今、あの男と暮らすことで、はじめて普通の女としての幸せをかみしめている。それも束の間のことなのか。
悲嘆に暮れてはいたが、涙は流さない。涙などとうに忘れてしまったのか、実際に血も涙もないのか。
「人の声が聞こえたようだが、誰か来ておるのか?」
ハツは迂闊にも男が入ってきたのに気がつかなかった。よほど取り乱していたのだろうか。
男は庭に打ち捨てられた刀に気づいた。
「刀か?ワシを切りつけようとでも思うたか?物騒なものは片付けよ」
老婆は誰にも気づかれずに屋敷に入り、誰にも気づかれず音もたてずに出て行ったのか?
男も、男の家来も、誰も気づいてはいない。
「殿の命、いかにして頂戴しようかと考えておりましたが、長らくこのようなおなごらしい暮らしぶりをしてまいりましたなら、刀も使えぬようになっておりました。情けのうて、泣いておったところでございます」
「それでよいわ」男は笑いながら満足そうに答えた。
ハツの不安は男の笑顔で紛らわされ、そして幸せだった。
エピソード1-3(フィクションなので登場人物は架空の人物です) [創作]
男
あの日、不覚にも名も知らぬ武将に切りつけられそうになった。戦場では何が起こるかわからない。
槍の者二人で両側から刺し殺したまでは良かったが、突然、目の前に武者姿の子どもが現れたのには驚いた。しかも、あれはおなご。あの鋭い眼光は忘れがたい。凛として恐れを知らぬあの目つきは、戦を繰り返してきた自分に勝るとも劣らないものだと思った。だが、所詮子どもは子ども、手綱を持つ手を切りつけ落馬させた。命をとるにはあまりにも惜しいと思った気持ちは一体何だったんだろう。
その後、娘の素性、消息を調べ続けた。
実の親殺しであるからには、恨まぬはずはない。けれど世は戦国。娘も武将の家に生まれたからには、どのような運命も受け入れる準備はできているはずだ。
ハツは本名ではない。しかし、本人がそう名乗りたいのであればそうさせておこう。
男はハツを溺愛した。本来、連れて行くべきではない戦場であっても、男装させて伴った。
愛されれば愛されるほど、ハツは男を憎んだ。チャンスがあれば殺す。
しかし、心とは裏腹に身体はその男を求めていた。
ハツは男と共に城に戻り、異国から来た者と面会することになった。
異国の者たちは背が高く、鼻が高く顔つきも違っている。
「これが天狗というものですか?」と問うたハツに対して男はせせら笑い、そして毬のようなものを示して言った。
世界は丸いらしい。世界は大きく、様々な種類の者どもが住んでいる。この国はこんなにちっぽけだ。こんな小さな国取りに時間をかけていてどうするのか。人生は短いが、せねばならぬことが多すぎる。そなたは子を生め。そしてその子たちを海の向こうの王にする。
異国の者たちは神の話を始めた。
丸い世界を治めているのは唯一神であり、神を信仰していれば皆救われると言う。
ハツは救われたかった。
エピソード1-2(フィクションなので登場人物は架空の人物です) [創作]
ハツ
ある日、ハツは馬に乗って湖の見える場所までやってきた。今の生活に何の不満もない。けれど、まわりが賑やかなら賑やかなほど、寂しく思えることがある。だから時々一人きりになりたかった。
広い湖面を見ていると気持ちが落ち着いてくる。水面に映った自分の姿を確認した。これは本当の自分なんだろうか。人々は美しいと言ってくれる。そう、内面の醜さを知っているのは当の本人だけなのだ。秘密は誰にも言わなければ良い。わざわざ今の生活を捨てることはないのだ。
背後に気配を感じた。悪意のある者とも思えなかったので、振り向かず五感を働かせながらじっとしていた。馬が走ってくる。
今まで見たこともない立派な馬に乗っている男が誰なのかすぐにわかった。
「そのままでよい」
男はハツの顔を見ずに言った。
「明日、城に来るように。おまえの家の者には話をしてある」
もしかしてハツの仇かもしれない男はそう言うと振り向きもせずに去って行った。
花火 [創作]
独身の頃、私とある友人の間で花火をテーマに作詞するのが流行っていました。(流行っている=二人以上?)
ー花火ー
夢のあとに残るものは
一枚の写真に凝縮されたメモリー
あなたに出会わなければこんな辛い思いせずにすんだ
だけどそれはいやなことと言うよりも
どんなに悲しくても別れが来ることがわかっていても
楽しかった
きれいな花火 見ながら
いつまでも続いたらいいねと言ったあなた
そんなこと昔のことと笑いあえる日も来るよ
ゴメン泣いてばかり
とびきりの笑顔で過ごしたかったラストデイ
夜空の光のショーが涙にかすむ せっかく来たのに
だけど大人ぶっていただけじゃわからない
心が暴走した あなたが大好きだと
口が裂けても言えなかったのに
花火の音が消したの ありがとう
いつかまた会おうと言ったあなた そんなとき
振り向きながら やっと笑顔を取り戻した
きれいな花火 見ながら
いつまでも続いたらいいねと言ったあなた
そんなこと昔のことと笑いあえる日も来るよ
メロディに合わせているのでちょっと文に変なところがありますが、ご了承くださいませ。