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移植3 [創作]

今までの話
移植1
移植2


私は今、家にいる。
両親は「諦めなくてよかった」と言って大層喜んでくれている。

窓を開けると鳥のさえずりが聞こえ、太陽の光がさんさんと降り注ぐ。
私は今、しあわせだ。


あれから退院するのに1年かかった。
最初、肺も胃も腸も、あらゆる臓器が私を拒否していた。
一つずつ克服して、やっと食べられるようになったと思って喜んでいたら、
突然、高熱に襲われ数週間意識を失ったこともあった。

けれど、歩けるようになった頃から毎日が楽しくなってきた。
動けて話せるようになると、病院内に友達ができた。

雪美は私より先に退院したけれど、ほぼ毎週、通院のついでにお見舞いに来てくれて、
2時間ほどおしゃべりしていった。


そうそう、今日は雪美がうちに遊びに来てくれる。
実は、私の諸々の事情は伝えていない。
あまりにもショッキングな話なので言い出せずにいた。
お互いの病気については話題にしなかったので都合がよかった。


退院が決まった頃、
「今度ギタリストの栃木清一のリサイタルがあるんだけど、一緒に聴きにいってみない?」
雪美に誘われた。
聞いたことのない名前だった。
私がポカンとしていると、雪美は更に続けた。
「ブラジルで活躍していたんだけど、拠点をこちらに移すことにしたようなの
凱旋コンサートってとこかしら。
すごくいいわよ。
コンサートはまだ先だし、体の具合が悪くなければ是非行きましょうよ」

今日はそのCDを持って来てくれるらしい。

チャイムが鳴った。来たみたい。
少し前までは階段の昇り降りも大変だった。
けれど、今は自分で玄関まで出ることができる。

「いらっしゃい」
雪美はこの間会ったときより随分日焼けしていた。
外出できるっていいなと思う。
私ももう少し!

「持ってきたわよ」

「雪美さん、いらっしゃい」母が出てきた。
「お邪魔します」
「いつもありがとうね。りさはあなたがいらっしゃるのをとても楽しみにしているの。
えっと、コーヒーと紅茶とどちらがいいかしら」
「どうぞお構いなく」
「美味しいケーキをいただいたのよ。あとでお持ちするわね」

二人で2階の私の部屋に行き、雪美の持ってきたCDをセットした。

繊細なアコースティックギターの音色が聞こえる。
はじめて聞くはずなのに何だか懐かしい。
胸の奥がジーンとしめつけられるようだ。

「私、聞いたことがあるかも。CMか何かで使われている曲なのかしら?」
「そんなはずないわよ。これは新曲だもの。何か似ている曲があるのかしら?」
「わかんない・・・でも、私これ好きよ。コンサートに連れて行ってね」
「気に入ってくれて良かった」

3曲目はアップテンポのサンバ調の曲だった。

母がケーキとコーヒーを持って来て部屋のドアを開け、目を丸くしていた。

私は無意識のうちに踊っていた。かなり激しく!

つづく
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kyao

おお! まさかこれほど早く続編が読めるとは!(^^)
ますます面白くなってきましたねー。早く続きを!(^^)
by kyao (2008-05-07 08:04) 

poi

はやく はやく 続きを!!!
by poi (2008-05-10 12:41) 

りんたろ

結末をだいたい決めたので、続けていきますよ~♪

by りんたろ (2008-05-10 16:22) 

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